個人事業主として開業を考えるときに、「開業届を出すべきかどうか?」と迷う方は多いでしょう。特に、売上や所得がどの程度になれば届出が必要なのか、出すことで得られるメリットやデメリットは何かを知っておくことは重要です。
本記事では、開業届の制度概要を解説し、売上や所得の基準をもとに「どのタイミングで開業届を出すべきか?」を詳しく解説します。
1. 開業届とは?制度の概要
1-1. 開業届とは
開業届(正式名称:「個人事業の開業・廃業等届出書」)は、個人事業を始めた際に税務署へ提出する書類です。
この届出を提出することで、税務署に対し「個人事業を開始しました」と正式に申告することになります。
1-2. 開業届の提出義務
税法上、開業届は「事業所得が発生する場合」に提出が求められます。具体的には、以下の条件に該当する場合、開業届を提出する必要があります。
提出義務があるケース
- 事業として継続的に収益を得る予定がある
- 副業ではなく、本業として事業を行う
- 所得が年間48万円を超える(基礎控除を考慮)
一方で、以下のような場合は、開業届を出さなくても問題ないことが多いです。
開業届を出さなくてもよいケース
- 一時的な収入(単発の仕事、臨時収入など)
- 給与所得(会社員としての給料)がメインで、副業収入が年間20万円以下(確定申告不要の基準)
つまり、開業届を出すべきかどうかは、「事業としての継続性」や「所得の額」によって決まります。
2. 開業届を出すべき売上や所得の基準
開業届を出すかどうかを判断する上で、売上や所得の基準を理解することが重要です。ここでは、主に「売上」と「所得」に分けて考えます。
2-1. 売上(収入)の基準
売上とは、事業で得た総収入のことを指します。
売上がいくらになったら開業届を出すべきか?
- 一般的には、年間100万円以上の売上がある場合は開業届を出すことを推奨
- 100万円未満でも、継続的な収益がある場合は開業届を出すのが望ましい
ただし、売上だけでは判断できないため、「所得(売上から経費を引いた金額)」の基準も併せて考える必要があります。
2-2. 所得の基準
所得とは、売上から必要経費を差し引いた金額です。
所得の基準として考えるべきポイントは、「基礎控除」や「副業の確定申告基準」です。
所得48万円を超えると開業届を出すべき理由
- 個人事業主の所得税は「所得=売上-経費」で計算される
- 所得税には「基礎控除」が48万円あるため、所得が48万円以下なら税金は発生しない
- しかし、48万円を超えると所得税の課税対象となり、事業所得として税務署に報告する必要が出てくる
副業の場合の基準:年間20万円
- 会社員など給与所得者の場合、副業の所得が年間20万円以下なら確定申告は不要
- ただし、住民税の申告は必要(市区町村によって異なる)
- 副業でも20万円を超える場合は開業届を出しておいた方がスムーズ
目安としての基準金額
状況 | 売上 | 所得 | 開業届の提出 |
---|---|---|---|
会社員、副業収入が少額 | ~100万円 | ~20万円 | 不要(確定申告も不要) |
会社員、副業収入が増加 | 100万円以上 | 20万円超 | 確定申告は必要、開業届は任意 |
専業で個人事業を行う | 100万円以上 | 48万円超 | 開業届を提出すべき |
3. 開業届を出すメリットとデメリット
3-1. 開業届を出すメリット
開業届を提出することで、以下のようなメリットがあります。
(1) 青色申告ができる(節税効果あり)
開業届を出すと、「青色申告承認申請書」を提出でき、以下の特典が受けられます。
- 青色申告特別控除(最大65万円)
- 赤字を3年間繰り越し可能
- 家族への給与を経費として計上可能(専従者給与)
青色申告ができると、所得税や住民税を大幅に減らすことができるため、事業所得がある人にとっては大きなメリットです。
(2) 事業用銀行口座を開設できる
開業届を出すと、事業用の銀行口座を作りやすくなり、資金管理がスムーズになります。
(3) 事業としての信用が高まる
開業届を提出すると、ビジネスとしての信頼性が向上し、取引先との契約がしやすくなります。
3-2. 開業届を出すデメリット
一方で、開業届を提出することで以下のデメリットもあります。
(1) 事業が赤字でも確定申告が必要
開業届を出すと、事業として税務署に認識されるため、毎年確定申告をしなければなりません。
(2) 国民健康保険料・国民年金の負担が増える可能性
開業届を出すと、所得が増えると判断され、国民健康保険料や国民年金の金額が上がる可能性があります。
4. まとめ:開業届を出すべき基準と判断ポイント
開業届を出すかどうかは、「所得の基準」をもとに判断すると良いでしょう。
✅ 開業届を出すべきケース
- 所得が48万円を超える場合(専業の個人事業主)
- 青色申告のメリットを受けたい場合
- 取引先との信用を得たい場合
🚫 開業届を出さなくてもよいケース
- 副業で所得が20万円以下の場合
- 一時的な収益の場合
開業届の提出は、事業の成長や節税対策に大きく関わるため、自身の売上・所得の状況をよく見極めて決定しましょう。
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