個人事業主としてビジネスを始める際、「開業届を出すべきか?」と悩む人は多いでしょう。開業届の提出は法律上の義務なのか、出さないとどんなリスクがあるのか、出すことでどんなメリットがあるのか――こうした疑問を解消するため、本記事では開業届の制度やその影響を詳しく解説します。
1. 開業届とは?制度の概要
開業届(正式名称:「個人事業の開業・廃業等届出書」)は、税務署に対して「これから個人事業を開始します」と報告するための書類です。所得税法に基づき、個人事業を始めた人は税務署に届け出をすることが求められています。
1-1. 開業届の提出義務
所得税法第229条により、個人で事業を開始した場合は「開業の日から1か月以内」に税務署へ開業届を提出することが定められています。しかし、罰則規定がないため、提出しなくてもすぐにペナルティを受けることはありません。
1-2. 開業届を提出する目的
開業届の提出は、税務署に対し「私は個人事業を始めました」と正式に申告するためのものです。これにより、青色申告が可能になり、各種税制上のメリットを受けられるようになります。
2. 開業届を出すメリット
開業届を出すことには、主に以下のようなメリットがあります。
2-1. 青色申告ができる(節税効果が大きい)
開業届を出すことで、青色申告承認申請書を提出し、青色申告を利用できるようになります。青色申告には以下のメリットがあります。
① 最大65万円の控除を受けられる
青色申告の中でも「複式簿記」で帳簿をつけると、最大65万円の特別控除が適用されます。白色申告ではこの控除がないため、節税効果が非常に大きいです。
② 赤字を3年間繰り越せる
事業で赤字が出た場合、翌年以降の利益と相殺できる「純損失の繰越控除」が使えます。これにより、翌年以降の税負担を軽減できます。
③ 家族への給与を経費として計上できる
家族に仕事を手伝ってもらった場合、「青色事業専従者給与」として適正な金額を経費にできます。白色申告では、経費にできる金額が限られるため、大きなメリットです。
2-2. 事業用の銀行口座を開設しやすくなる
個人事業を始める際、事業専用の銀行口座を開設することが推奨されます。多くの金融機関では、事業用口座を開設する際に「開業届の控え」を求めるため、提出しておくとスムーズに口座を作れます。
2-3. 事業用クレジットカードの作成が可能
事業を運営する上で、経費の支払いにクレジットカードを使うことが多くなります。事業用クレジットカードを作る際も、開業届の控えが必要なことが多いため、提出しておくと便利です。
2-4. 小規模企業共済や各種助成金の対象になる
個人事業主が利用できる小規模企業共済や、各種補助金・助成金の申請時にも開業届が必要になることがあります。例えば、小規模企業共済は、事業主の退職金のような制度であり、節税メリットもあります。
2-5. 社会的信用が高まる
開業届を提出し、事業を公式に登録することで、取引先や金融機関からの信頼が高まります。特に、企業との取引を考えている場合、事業としての正式な証明になるため、開業届を出しておくことが望ましいです。
3. 開業届を出さない場合のデメリット
開業届を出さないことに対する直接的な罰則はありませんが、以下のデメリットがあります。
3-1. 青色申告ができない
開業届を出さないと、青色申告承認申請書も提出できないため、青色申告のメリット(65万円控除・赤字繰越など)が使えません。 これにより、税金の負担が増えてしまいます。
3-2. 事業用の銀行口座・クレジットカードが作れない
事業専用の口座やクレジットカードを開設する際に、開業届の控えを求められることがあります。提出していないと、プライベートと事業の資金が混在し、管理が難しくなる可能性があります。
3-3. 補助金・助成金の申請が難しくなる
個人事業主向けの助成金・補助金の申請時には、開業届の提出が求められることが多いです。事業の立ち上げ資金や経営のサポートを受けたい場合、開業届を出しておかないと不利になります。
3-4. 事業の信用力が低下する
法人ではなく個人事業主であっても、正式に開業していることを証明できると、取引先からの信用を得やすくなります。開業届がないと、「副業の延長」と見なされることもあり、大きな取引が難しくなることもあります。
4. どんな場合に開業届を出さなくてもよいか?
次のような場合、開業届を提出しなくても大きな問題にはなりません。
4-1. 副業で小規模な収入しか得ていない場合
開業届を出すことで、本業の会社に副業が知られる可能性があります。会社が副業禁止の場合、トラブルになる可能性があるため、収入が小規模なら様子を見てもよいでしょう。
4-2. 事業が軌道に乗るか不安な場合
まだ事業を始めたばかりで、継続できるか不安な場合は、様子を見てから開業届を出すことも考えられます。ただし、開業届を出さないと青色申告のメリットを受けられないため、慎重に判断しましょう。
まとめ:開業届は基本的に提出するべき!
開業届は、法律上は提出義務があるものの、提出しなくてもすぐに罰則はありません。しかし、開業届を出すことで青色申告による節税・社会的信用の向上・助成金の申請など多くのメリットを受けられます。
副業レベルの収入や、事業がまだ不確実な場合は提出を見送ることもできますが、本格的に事業を行うなら、開業届を提出するのが賢明な選択です。
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